CIVIC ECONOMY LAB

私たちが小さな経済を生み出す方法

石橋秀彦さん( 豊劇新生プロジェクト) × 紫牟田伸子さん シビックエコノミー・ケーススタディ
2016年4月16日(土)に『日本のシビックエコノミー~私たちが小さな経済を生み出す方法』(フィルムアート社)の刊行を記念して、Impact Hub Kyoto(京都市上京区)でトークイベントを開催いたしました。今回は、豊劇新生プロジェクト代表の石橋秀彦さんと本書の編著者の紫牟田伸子さんのトークをレポートいたします。(文中に挿入されている画像は当日使用したスライド画像です)
【『日本のシビックエコノミー』刊行記念トークイベントのプログラム】
①「シビックエコノミーとはなにか」 スピーカー:紫牟田伸子さん
②ケーススタディ 田村篤史さん(京都移住計画) × 江口晋太朗さん
ケーススタディ 石橋秀彦さん( 豊劇新生プロジェクト) × 紫牟田伸子さん
④ゲストクロストーク 田村篤史さん × 石橋秀彦さん (進行:江口晋太朗さん)

 

 石橋:閉館した築約90年の映画館を買い取り、映画館を核とした地域コミュニティの活動の場にしようと2015年に豊劇をリニューアルオープンしました。人口8万6,000人の豊岡市で普通の映画館をやっても無理だろうと考えたのです。

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このプロジェクトの目的は、

  • 周辺地域の文化の担い手の後押し
  • 家、職場以外の第三の居場所づくり
  • クリエイターや作家の育成
  • 地域外、海外との交流
  • この地域で暮らすことを楽しむ場所をつくる。

 

一番大切なのはこの5番目だと考えています。

私は石橋設計という会社を経営していて、木造アパート10棟にシングルマザーや外国の方も大歓迎でやっております。芸大出身で経済はまったくわかりませんので、本当にいろんな人に助けてもらっています。その1人が県立大学の経営学部の西井教授です。

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「ビジネスモデル・キャンバス」を作ってどのような循環でエコノミーを回すかを後押ししてくれました。資金の一部はクラウドファンディングで集め、地元の新聞にも掲載してもらいました。

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リノベーションでは、「お化けが出るんじゃないか」と言われていたトイレを改装しました。

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ロビーには映画館の椅子を取り外したものを置き、5時以降は煙草も吸えるカフェバーに。大ホールはスクリーンを張り替え、ゆったり映画を楽しめるように席を間引き、テーブルを置きました。湯たんぽも貸します。16人も入れば大入りみたいな映画館なので暖房費節約のための苦肉の策です。あと突き出しの舞台を設け、地元のミュージシャンのコンサートなどを開催しています。

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映画はピアノ伴奏付き「月世界旅行」を皮切りに、「フランシス・ハ」「ベイマックス」カンパニー松尾さんのAV「テレクラキャノンボール」(豊岡出身京都在住の小説家、花房観音さんのトークショー付き)、「紙の月」、塚本晋也の「野火」、ポール・トーマス・アンダーソンの「インヒアレント・ヴァイス」「セッション」、グザヴィエ・ドラン作品、「みんなのための資本論」などを上映しています。

50km圏内に映画館がないので上映作品の幅を広げています。これまでに塚本晋也さん、紀里谷監督、あがた森魚さん、「牡蠣工場」の想田監督が来てくれました。

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映画製作第一弾として「未来をなぞる写真家・畠山直哉」というドキュメンタリー映画も作りました。私が映画美学校に1年間在籍した時に知り合った監督と一緒に作ったんです。これが文化庁の優秀賞を取り100万円いただきました。この100万円がなかったらもうやっていけません(笑)。

約70席の小ホールは一時期日活ロマンポルノ専門館でしたが、椅子を取り外し、琉球畳を置いてコミュニティスペースとしてタダで貸し出しています。映画の上映もできます。ここでプロジェクトマッピングを使ってクラブを開催したら述200人の若者が来てえらいことになりました。

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「キッズバザール」という子ども向けの職業訓練的なイベント、無声映画に音楽をつけるワークショップ、利き酒大会、地域の若者たちを集めて語り合う会、ウクレレチームの編成などもやっています。バーでは、家庭でつくったチャーハンを持ち寄る「チャーハン大会」などゆるいイベントもやっています。

屋内駐車場では飲食店を始めました。空間デザインは、地元のかばん屋のデザイナーが(空間デザインの経験はないのですが)、すごくいいセンスを持っておられるのでお願いしました。この方とはオリジナル家具や空間デザインをコラボレーションしています。

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「ドキュメンタリーを撮りたい」という保険屋の若者の相談にのって作品を上映したり、地元の看護師さんがCDデビューしたり、最近はうれしいことに映画監督志望の高校生がロビーで宿題をやってます(笑)。

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当初の目的である「周辺地域の文化の担い手の後押し」が少しはできてきたのかなと思います。

「居場所づくり」としては、常連たちのたまり場になっています。

「クリエイターと作家の育成の機会を作る」に関しては、まだまだこれから社会的なシステムを作っていかなくちゃいけない。

「地域外、海外との交流」は今日みたいに京都に招いていただきながらネットワークができるといいなと思います。

「この地域で暮らすことを楽しむ場所を作る」については、僕自身はまだ楽しむ余裕はないけれど、とりあえず飲む場所は増えました。地元の人にも少しは喜んでいただけているかなと思います。

最近、経営学部の西井先生と組んで「豊劇地方創生ビジネスシンポジウム」を開催し、地元企業の社長さん、市の都市整備課と大交流課もお招きして「地元を好きになる教育を行っていない」という結論になりました。必死にいい子を育て、進学校に行かせて、都会に行っていい暮らしを勝ち取ってこいと、そんな教育しかやってないから、地元愛が薄い。ただ、豊岡はかばん産業があるので、デザインと産業を組み合わせることで一つのビジネスモデルができるのではないかと。デザイナーをかばん業者とつなぐ、空き家や空室をリノベーションして地域の住人、人口を増やすなどは、実現できそうな気がします。豊劇がひきこもりの人や外国人、ゲイ、レズビアンなどが気軽に入れる場所になっていけばいいなと思います。

そもそも、なぜこのプロジェクトをやっているのかというと、豊劇には本物の価値があると思っているからです。確かに一度は役目を終えた劇場ですが、今も地域の人々の中に思い出として残っています。建物自体はとくに優れたものではありませんが、そこの地域で暮らし続けている人たちにとって非常に希少な価値を提供してくれる建物だと思っています。

紫牟田:私も豊劇に行ってきました。実はリニューアルしてまだ1年なので、日本のシビックエコノミーの循環を生み出す事例として取り上げるには、どうかなと思ったんです。でも、映画館を再生しようというところはいっぱいあるなかで、映画館だけじゃない新しい公民館を造るという明快なコンセプトに興味を持って伺ったんです。公民館という非常にパブリックなものを普通の市民が構想したところが面白いなと。

石橋:石橋設計は本当に一民間企業で、出資に関してはクラウドファンディングで270万円、それは小ホールのほうのリノベーションに使い、中小企業庁から「ものづくりとサービス革新」の補助金1,000万円を上映機器に使い切りました。あとの何千万円は全て石橋設計で出しています。

紫牟田:シビックエコノミーの1つのポイントは、1人の市民のパブリックマインドだと思っているんです。個人のパブリックマインドが、この映画館に育てられたことから始まっているのもいいなと思うんですね。

石橋:僕は中学校まで地元にいて、この映画館で映画を見たことによって「映画監督になりたい」と思ってイギリスに行ったんです。それが、現地で言葉がしゃべれない、日本語もしゃべれないのでだんだん個人的な表現にいって、美大に進み、現代美術をずっとやってきたのが、めぐりめぐって映画館に帰ってきた。それで父母が一生懸命働いた何千万円を使っちゃうわけですが、その状況でやらないほうが罪と思うわけです。たしかに行政には難しいと思うのですが、でも、そのマインドを変えていかないといけないと思っています。

紫牟田:やっぱり行政には無理でしょう。目的がひとつじゃないから。石橋さんがやってくれて初めて「そうか」という感じですよね。行政の複合施設があまりうまくいかないのは、何か楽しそうだよねというマインドがそもそもないからなのかもしれない。

石橋:行政の人も劇場に来てくれて「ああ、面白いね」と賛同してくれるんですが、僕から行政にはアプローチせず、向こうが来てくれるまで我慢しようと思っています。それでもビジネスシンポジウムのようなもので、何とか架け橋をつくっていかなくちゃいけないなとは思っていますけど。

紫牟田:高校生が宿題をしにくるのはいいですよね。本当に開かれているところなんだなという気がします。若い方たちが好きなようにやっていて、クリエイターのネットワークもできている。でも「ギャラリーをつくろう」ではなく、クリエイターの人たちが何でもできるような、何かもやもやした場所になっているのが豊劇ですね。

石橋:もともと映画館は大衆文化ですから。昔はポルノもやっていたし、今もできるだけ際どいものをやろうとしているのは、徐々に文化的な許容範囲を広げたいという思いで上映作品を選ばせてもらっているから。誰も入らない時もありますよ。でも、上映したという事実が大切なので。

紫牟田:私が見た時も2人でした(笑)。でも1年4カ月でこれだけ活発な人の出入りと交流があるのはすごい。豊劇があることでまた別のものが生まれてくるソーシャルインパクトもありそうです。10年後にはもしかしたら文化の中心になっていくような。若い子たちが別のことを始めるというのもシビックエコノミーの引き継ぎ方の1つかなと思います。

(了)

写真©ToyookaCinema

石橋秀彦

(いしばし・ひでひこ)1969年4月生まれ。兵庫県豊岡市の中学を卒業後、1985年に北アイルランドの高校へ留学。北アイルランド、ベルファースト市のアルスター大学で芸術を学び、マンチェスター・メトロポリタン大学・大学院FINE ART修士課程を修了。ロンドンで作家活動後、1999年に帰国。その後東京の専門学校で講師や画廊運営などに関わりながら、2008年に、東京渋谷のユーロスペースにて、北アイルランド映画祭を主催。2014年から豊岡劇場を運営。現在豊岡市日高町の有限会社・石橋設計の代表取締役。

紫牟田伸子

(しむた・のぶこ)編集家/プロジェクトエディター。美術出版社、日本デザインセンターを経て、個人事務所SJ主宰。「ものごとの編集」を軸に、デザインプロデュース、商品企画、プロジェクトプランニング、マネジメントを行う。主な著書に『シビックプライド:都市のコミュニケーションをデザインする』、『シビックプライド2【国内編】:都市と市民のかかわりをデザインする』(共同監修・共著/共に宣伝会議)、『編集学:つなげる思考・発見の技法』(単著/幻冬舎)など。