CIVIC ECONOMY LAB

私たちが小さな経済を生み出す方法

紫牟田伸子さん「シビックエコノミーとはなにか」 『日本のシビックエコノミー』刊行記念イベントオープニングトーク
2016年4月16日(土)に『日本のシビックエコノミー~私たちが小さな経済を生み出す方法』(フィルムアート社)の刊行を記念して、Impact Hub Kyoto(京都市上京区)でトークイベントを開催いたしました。このレポートでは、本書の編著者である紫牟田伸子さんのオープニングトークをお届けいたします。
【『日本のシビックエコノミー』刊行記念トークイベントのプログラム】
「シビックエコノミーとはなにか」 スピーカー:紫牟田伸子さん
②ケーススタディ 田村篤史さん(京都移住計画) × 江口晋太朗さん
③ケーススタディ 石橋秀彦さん( 豊劇新生プロジェクト) × 紫牟田伸子さん
④ゲストクロストーク 田村篤史さん × 石橋秀彦さん (進行:江口晋太朗さん)

 

紫牟田:みなさんこんにちは。紫牟田伸子です。

日本のシビックエコノミー~私たちが小さな経済を生み出す方法』(フィルムアート社)という本が今年の2月に出版されました。2014年刊の『シビックエコノミー 世界に学ぶ小さな経済のつくり方』を読んですごくおもしろかったので、「日本版をつくったらどうだろう」とフィルムアート社の方とお話ししたことがきっかけでこの本が生まれました。

「シビックエコノミー」を直訳すると「市民経済」ですが、副題に「世界に学ぶ小さな経済のつくり方」とあります。

この本(翻訳版)に紹介されているのは、たとえば、商店街のお店の奥で勉強についていけない子どもたちの塾を運営している人たち、要らない自転車を集めてアフリカに送って、その自転車を修理することでアフリカの人たちが自立できる会社をつくり、修理済みの自転車を自分の国でレンタルしたり販売したりしている人、地域でとれる野菜で病院食をつくっている人たちです。

どれも魅力的ですが、「シビックエコノミーはこれだ」という解答はないように思われました。むしろ、生産する人がいて、売る人がいて、買う人がいるという、今までの経済の流れではできないことなんだということがだんだんわかってきました。たとえば、買うことができない人にも豊かな生活を送ってもらうための仕組みを考えることが必要だったりします。

ごはんをひとりで食べている子どもや、ごはんさえ食べられない子どものために、自宅の一部を開放して無料や低価格で食事を提供する「子ども食堂」が全国に広がっています。こういう話を聞くと、心がほっと温かくなります。大病院の周辺にホテルや宿泊所がないので、看病に来る方たちのために自宅を利用してB&Bを始めた方もいます。

実は、私たちは、少しずつシビックエコノミーを始めているのだと思います。公的に助け合うことができない部分に、お金を介在させながら新しい循環のやり方を発明していく人たちが少しずつ増えていて、それをソーシャルビジネスやコミュニティビジネスと呼ぶのではないでしょうか。ビジネスという側面だけを見るとお金のやりとりだけになってしまうけれども、ゆくゆくは誰に循環しているのかを考えていくのがシビックエコノミーなのではないでしょうか。

『日本のシビックエコノミー』の「はじめに」で私はこんなふうに書きました。

 

 現代社会においてシビックエコノミーは、明らかに新しい公共へのアプローチである。ある意味で暮らしの存続のための市民による自衛であり、地域を自分たちなりに使いこなす共助のあり方でもあります。

 

「おわりに」にはこう書いています。

 

 1人でごはんを食べる子どもが増えていることを聞くと、心が痛みます。生存するだけの高齢者やマイノリティーのあり方に憤るときがあります。介護や保育をするという大切な仕事がもっと大切にされてもいいだろうと思います。自然が破壊されていくことにも泣けてきます。

そんなとき、三草二木西圓寺や、子ども食堂のような活動の広がりや、ゴジカラ村のような場所や、尾道の空き家再生プロジェクトのような話や、おひさま進歩エネルギーのような試みや、シブヤ大学のような背中を押してくれる仲間に出会える場所や、まちの保育園や森のようちえんのような子どもの環境や、食べる通信のような生産者へのエールや、仏生山温泉のようなゆっくりとしたまちぐるみ旅館構想など、本書で取り上げた事例や、それ以外にも続々と生まれているパブリックマインドあふれる活動のことを聞くにつけ、心から感激し、こんな場所や仕組みがもっと広がっていったらいいのにと思います。

そうした活動の方向として、ソーシャルビジネスが推進されているのはとてもいいことだと思います。社会の利益となるはずの継続的に行う主体がふえるということは、とても大切なことです。

正直に言うと、ソーシャルビジネスの定義には多少の違和感がありました。経済産業省のウエブサイトには、『地域社会の課題解決に向けて、住民、NPO、企業などさまざまな主体が協力しながらビジネスの手法を活用して取り組む』と書かれていました。別の資料には、『さまざまな社会的課題を市場として捉え、その解決を目的とする事業』と定義されていました。言葉尻を捉えるようですが、『ビジネスの手法で取り組む』とか、『市場』とか『解決を目的とする』という部分に引っかかり、居心地が悪い思いをしていたのです。

近代の経済は、市民を消費者に仕立ててきました。物事が商品として細分化されて処方され、消費されていきます。土地もどんどん細かく小さくなって所有されていきます。コミュニティも家族も世代の好みもどんどん分けられていきます。本当は一人一人の幸福を目指しているはずなのに、ますます遠くに行くような気がしてなりません。

そんなとき、『シビックエコノミー』という捉え方に出会い、得心がいったのです。そうか、社会全体に新しい循環をつくるのだ。「シビックエコノミー」は利潤を得るという意味での利益ではなく、社会に役立つことという意味での利益の考え方が基盤となる循環です。社会的利益を目的とする活動を継続的に行うためには、主体も経済的に自立するように努めることが大変重要です。このためには、実はこの事業の利益と社会的利益というものをバランスしている人たちがいるだろうと。このバランスが非常に大事だというふうに言えるのではないかと思います。

シビックエコノミーが市民主体で生じることは間違いありません。しかし、国や自治体も、中間支援組織や第三セクターも、そのエコノミーの一部としての新しい機能を持つことが、シビックエコノミーを新しい社会の生態系として組み込んでいくためには必要だと思います。

 

私は今、幾つかの自治体とシティプロモーションのようなことをさせていただいていますが、何をプロモートしていくのかと考えると、その地域で人が豊かに幸せに暮らしていくための模索をしているのだと思っています。

それを真正面から言ったところで、市役所や区役所が「はい、そうですか」と、明日から変わるわけではない。だけど、もっと市民と協働できるところはあるし、市民の側も「これはやってくれ」と言うだけではなく、「私たちはこれをやっているので、ちょっと助けてください」という言い方で、私たち自身が主体となることもできると思うのです。

この本を書くために、いろいろと取材をさせていただいて、日本ではまだまだ欧米の事例のように、自治体や公共的な施設が民間と協働する新しいやり方をつくっているところは非常に少ないと感じました。

本の中で盛岡の近くの紫波町で民間の活力の使い方をビジネスの手法で解決していった事例を紹介しています。これを見ればどこでもできるだろうと素人は思ってしまいますが、行政の経営システムを考えるとなかなかそうはいきません。

今の行政の経営システムは、80~90年代ぐらいに始まったニューパブリックマネジメントという手法がようやく根付いてきた段階で、つまり私たちの気分よりも10年は遅れているのです。ですから、まちは私たちが作っていくもので、私たちが行政に「こういうふうにしたらどうですか」と、できるような先例をつけていくべきことなのかもしれないなと思いました。

京都や大阪は市民力が非常に強いところだと思うので、関西の事例をもっと取り上げたいし、これからもずっと見ていきたいなと思っています。だから、今日は京都に呼んでいただいてとてもうれしく思っています。

今は幸せの物差しが変わりつつある時代だと思っています。経済的に豊かであれば老後まで安心ということはない。もっと隣同士仲良くしたい、世代を超えて交流したいという動きがいろいろなところで出てきています。そんななかで新しい循環はできるはずです。たとえば都会では農業を体感することができなくなっていて、

食に関する安心・安全は大事になっています。それから地場産業の人たちは「後継者がいない」と言っていますが、一方で農業をやりたいと思っている人たちがいっぱいいる。そういうことがうまく循環できていないんだと思うのです。新しく循環をつくっていくときに、今のグローバル経済の中で作るより、小さくてもいいから私たち一人一人がつくっていこう。それが『シビックエコノミー』のメッセージではないかと思うのです。

シビックエコノミーを自分で始めようと思うと、自分がビジネスを始めなければならないと思うのですが、でも、そうじゃない。もちろん主体的に関わることもできるけど、あの人を応援しようということもできる。それから人がやっていることに自分ができることで関わることもできる。ビジネスというより、新しい循環、新しい互助システムをつくるということで、たとえば日本の農業を絶やさないようにしたいねとか、すごくいいものだから地場産業に関わりたいねとか、この地域に自分も住みたいと思うというふうに、新しい幸せへの関わりを生み出していくことのような気がします。

(了)

紫牟田伸子

(しむた・のぶこ)編集家/プロジェクトエディター。美術出版社、日本デザインセンターを経て、個人事務所SJ主宰。「ものごとの編集」を軸に、デザインプロデュース、商品企画、プロジェクトプランニング、マネジメントを行う。主な著書に『シビックプライド:都市のコミュニケーションをデザインする』、『シビックプライド2【国内編】:都市と市民のかかわりをデザインする』(共同監修・共著/共に宣伝会議)、『編集学:つなげる思考・発見の技法』(単著/幻冬舎)など。。